エジプト神話の中でも特に有名なのが、オシリスとセトの兄弟の争いです。
あらすじとして、計略によって弟に殺された神オシリスが、妻のイシスの力によって復活する、というものです。
この物語は、王権、死と復活、冥界の支配を巡る壮大な神話であり、後のファラオ信仰にも大きな影響を与えました。
オシリスとは?
大地の神ゲブと天空の女神ヌトの間に4人の子供が産まれました。長男オシリス、長女イシス、次男セト、次女ネフティスです。
オシリスは、妹イシスと結婚し、王として、エジプトを治めていました。
彼は優れた王であり、エジプトに農耕や文明を広め、国を繁栄させました。
しかし、彼の弟セトは、この繁栄を妬み、王位を継いだオシリスを憎んでいました。
セトは戦争と暴力の神であり、砂漠や嵐を司る存在でした。
セトの策略とオシリスの死
セトはオシリスを排除しようと企て、巧妙な策略を練りました。彼は豪華な棺(ひつぎ)を作り、それを宴の場に持ち込みました。そして「この棺にぴったり入る者に、これを贈ろう」と言い、神々に試させました。
次々と試したものの、誰にも合いませんでした。最後にオシリスが棺に入ると、それはまるでオシリスのために作られたかのようにぴったりと合いました。
するとセトとその共犯者たちが、すかさず棺の蓋を閉め、釘を打ち、鉛を流し込んで密封し、ナイル川へ流してしまいました。
オシリスは棺の中で窒息し、こうして命を落としたのです。
イシスの嘆きとオシリスの復活
オシリスの死を知った妻のイシスは嘆き悲しみ、夫を探し求めました。
ついに彼女はレバノンの港町のビブロスでオシリスの棺を発見し、エジプトに持ち帰り隠しました。
しかし執念深いセトはそれを見つけ出して奪い、オシリスの遺体をバラバラに切り刻み、世界中に散らしました。
しかし、イシスはその強い愛と魔術の力、さらにトトとネフティスの協力の元で、夫の遺体を一つずつ集めました。
そして、イシスは創造神アトゥム・ラーの力を借りて、オシリスを復活させます。
その結果、オシリスはイシスとの間にホルスという子を授かりました。
しかし、オシリスは男根を除いた不完全な体だったため、完全に生き返ることはできず、冥界の王となり、死者の魂を統べる神となりました。(オシリスの男根はオクシリンコスで魚に飲みこまれてしまいました)
ホルスとセトの戦い
オシリスの息子ホルスは成長し、父の仇であるセトと王位を巡る戦いを繰り広げました。
この戦いは非常に長く、神々の間でも意見が分かれました。
最終的に、ホルスはセトを倒し、正当な王としてエジプトを統治することが認められました。
こうしてエジプトの王権は、オシリスからホルスへと引き継がれたのです。
この神話の象徴
オシリス … 冥界の王、死と復活、正義の象徴
イシス … 愛、母性の象徴
セト … 混沌、暴力、砂漠と嵐の象徴
ホルス … 王権、正義、復讐の象徴
この神話は、エジプトにおけるファラオの正統性を説明する重要な神話であり、「王は生前ホルスとして統治し、死後はオシリスとして冥界を支配する」と考えられました。